カテゴリー: 日本の探偵小説
「探偵小説四十年」その三
第二次世界大戦は乱歩にも多大な影響を及ぼした。まず、乱歩的な小説は軍国主義とは相反するのである。小説は検閲にひっかかり出版社も出版物の重版を見合わせたので印税収入が期待出来なくなっていった。探偵小説家達は科学小説、戦争小説、スパイ小説等の得意な分野への転換が必要になった。しかし、臨機応変という言葉は江戸川乱歩にはなかったのだ。(ただし、収入の為に「小松龍之介」として「知恵の一太郎」という少年の科学的機智を扱った14回シリーズを書いた。後述しているが、乱歩名では小説をひとつだけ書いている。また終戦直前には貯えが底をつき就職をしようとまでしていたという。)
どういう理由でか出征はしていない様だ。(年令の為?健康の為?まあ、何らかの理由があったのだろう。彼の息子は昭和18年に出征して無事帰還している。)東京に残った乱歩は、戦前は人嫌いで孤独を愛するタイプ(それも極端な。)だったのだが防空群長を引き受けたりして隣組や町内の付合いを始めたのだ!飲めなかった酒も飲める様になったのだ!自宅の庭に防空壕を掘り、菜園を作り、早起きになり、勤労奉仕をし、訓練をし、禁煙さえもしたのだ。つまり、不健康そのものだった乱歩が健康的になったのだ。肉体的にであって、精神的にはモチロン戦争がモロに影響している。良い悪いの話ではないのだが、あの戦争が乱歩にさえも大きく影響した事実に、当たり前だったのだろうが驚いてしまったのだ。
戦争中の出来事は結構詳しく書かれている。二度と繰り返して欲しくない出来事だが、戦争を直に知らない私だから読物としては面白い。もちろん、この時期乱歩としては唯一「偉大なる夢」というアメリカを敵とした科学小説を書いているのみであるし、世の中がそういう向きではなかったので探偵小説については余り書かれていない。しかし、乱歩の周囲の探偵作家達がどの様に戦争を過ごしたか、又は亡くなったかは知っている範囲で書かれている。(人嫌いな為、他の作家とのつきあいが多い訳ではないが。)乱歩の目を通したノンフィクションなのだ!
戦争で起った不幸中の幸いとでもいうのだろうか、英文の探偵小説を亡くなった友人から譲り受けたり、アメリカ兵が読み捨てていった多くの探偵小説を読む機会に恵まれた。乱歩の膨大な蔵書が奇跡的に無事だったのも喜ばしい。
終戦時、大腸カタルや栄養失調の為骨と皮だけになりながらも、疎開する際の蔵の本の輸送手段を考えたり「探偵小説の未来は明るい」と楽観視したり(実際そうだったのだが。)つくづく興味深い乱歩である。
-YS, 2006年3月18日
2006年3月18日
